パークコート神宮前
立地:申し分ないです。山手線「原宿」駅徒歩6分、「表参道」駅まで徒歩13分と原宿・表参道がお散歩圏内の物件です。
建物:三井不動産レジデンシャルによる都市型ハイグレードマンションシリーズ「パークコート」です。
三井のHPには「時間が経っても色あせない品格を持つ「本格邸宅」をコンセプトとしています。緑豊かな立地にも関わらず、交通の便が良く、洗練された都会暮らしができます。」との記載の通り、東郷神社の杜を感じられる立地です。
なおマンション内部の仕様については、高額物件を買う購入層から賃貸仕様程度という口コミも見られました。
本物件の決定的なネガティブ要因が
「定期借地権」
であるという点です。
またその借地料が高いです。
さらに追い打ちを掛けるように容積率オーバーという「既存不適格」物件であることも指摘されます。
なお「定期借地権」でもその販売価格が安ければ人気沸騰することは「シティタワー品川」で証明されています。
2009年竣工の本物件の評価が現在どうなるのか、本競売で見ていきたいと思います。
1.物件所在地
明治通りの北西側に位置し、原宿警察署と渋谷中央図書館に隣接しています。
周辺には、以前競売で紹介したヴィンテージマンション「ビラビアンカ」もあります。
本マンションの建設経緯を調べてみると、「神宮前一丁目民活再生プロジェクト」という名称で東京都の土地に賃借権を設定する代わりに原宿警察署を建設することを目的に2005年に入札が行われ、開発されたことが分かりました。
また現在ロータスが1Fに入居している警察署隣りのビルは本PJでの建設です。
なお、渋谷区図書館は同PJでの建設ではないようです。
当図書館入口に「絶えざる歩み(亀)、うさぎに優る。」と刻まれた文字と共に「様々な多くの本に出合うことは、豊かなエスプリのつまった人生のはじまり」「限りない学びの宝庫である当図書館が、多くの人々の未来への大きな扉となることを願っている」という説明書きがありました。
(日々忙しい中でも、読書をする時間を設ける大切さを感じさせます。)
2.競売物件概要
①パークコート神宮前について
共用設備としては、コンシェルジュサービス・16階のラウンジ・屋上デッキがあります。本物件の規模からすれば、ライブラリーと言った設備が欲しいところです。
おそらく1F&2Fに入居している東郷神社の挙式披露宴施設「ルアール東郷」の入居が前提となっていたことからスペースを確保することが難しかったものと思料されます。
エントランスはゆったりとした車寄せがあり、ガラスを基調とした落ち着いた空間という印象を受けました。
ここで、定期借地権・地代について確認していきたいと思います。
土地所有者(土地賃貸人):東京都
土地賃借人:㈱原宿の杜守(落札した東電不動産㈱・三井不動産㈱・㈱竹中工務店太平ビルサービス㈱・㈱安井建築設計事務所のコンソーシアム組成のSPC)*震災前の2005年当時は東電が元気あったことが思い出されます。
定期借地権
土地賃借面積:15,995.52㎡
期間:2006年12月1日~2061年3月31日
地代:55,166,407円/月(3,449円/㎡)
パークコート神宮前の定期転借地権
土地転貸人:㈱原宿の杜守
土地転借人:三井不動産レジデンシャル㈱・東電不動産㈱
土地転借面積:8,322.38㎡
期間:2008年4月25日~2061年3月31日(53年)
地代:30,321,216円/月(3,643円/㎡)
合計388戸の本マンションですので、単純に戸数割りすると、78,147円/月と求められ、その地代の高さが露わになってきます。
なお、ここで一つ気になる点があります。
東京都から借りている土地面積と本マンションの転借面積が約半分となっているにも関わらず、地代は半分にはなっていません。
本マンションを建てる際に区役所に提出する建築確認申請時の敷地面積は「13,452.16㎡」となっていますが、転借面積はそれよりも大幅に少ないことから、容積率オーバーという「既存不適格」が発生しています。
PJスタート時より警察署並びに明治通り沿いのオフィスビルが建てられることが確定している中で、なぜ容積率オーバーが発生しているのかその経緯は調査しきれませんが、地震等による自然災害や建物基礎の建築違反等により再建築せざるを得ない状況が発生した場合、現建物の約60%しか建物面積を確保できないというリスクを抱え続けることになります。
話を地代に戻しまして、他の定期借地権物件との比較表でその価格を調べてみました。
(パークコート渋谷は、購入時に地代70年を一括払いする形式を取っていますので比較のために月額費用を出しました)
「パークコート神宮前」のその地代の高さが際立っています。
本物件を新築時(借地期間50年)に購入する場合、50年地代合計が38,886千円となり、これを専有面積坪で割ると235万円/坪となるので、他の所有権物件と比較したい場合、下の表のように考えるのが良いのではと感じました。
(*新築時の平均販売価格:300万円/坪)
比較設定条件:
・所有権物件の土地固都税を12万円/年としてその50年分を専有面積で割った値を採用
・所有権物件と定期借地権物件の価格差を25%(定借:75 所有権:100)とする
感覚的には、2009年当時において周辺の所有権競合物件の価格が714万円/坪であれば、適正な水準であったと理論的には言えるかもしれません。
②専有部について
競売対象の部屋はThe Forestと呼ばれる棟の3階に位置し、北東向きではあるものの原宿外苑緑道の「緑」を色濃く感じられる部屋であると思われます。
原宿外苑緑道
間取りはゆったりとした1LDKであり、DINKSからの需要が見込まれ原宿・表参道という立地特性にも合致しているものと考えられます。
また部屋は所有者が自用で使っていたが、ほとんど利用はしていなかったものと現況調査報告書から推測されます。
3.入札価格査定
以上を基に今回の入札金額を査定していきます。
競売評価書においては、売却基準価格として4,390万円(266万円/坪)、競売減価(▲20%)前で5,600万円(339万円/坪)と評価しています。
最有効使用の判定としては、部屋の面積並びに現使用者の退去が可能であることから、自己使用が最有効使用と判断できます。
なお、収益性の高い立地であることから収益価格の試算もしたいと思いますが、仮に収益価格が理論上は高く算出できたとしても本件定期借地権物件に対して投資用不動産のローンを引くことは非常に困難であるため、自己資本を出せる人に限られてしまいます。
(*一方で、使える現金があり、減価償却費を多く取りたい法人にとってはオススメとも言えます。)
パークコート神宮前の取引事例をレインズで検索したところ、複数の部屋の取引事例を得ることが出来ました。
2019年の成約事例では270万円/坪前後の事例もありましたが、2020年以降は300万円/坪以下の取引はなく、概ね330万円/坪前後での取引となっています。
さて、ここで表題の件につきまして確認したいと思います。
新築時の坪単価が300万円/坪程度でしたので1割程度しか価格が上がっていないと見えますが、借地期間が53年から12年減って残り39年(▲23%減少、マンション市況に変化がなければ理論上232万円/坪)にいるにも拘わらず、その価格が上がっているという事は、本物件も価格上昇しているものと考えられます。
以上より、取引事例から想定される本物件のマーケット価格としては、5500万円程度と考えられます。
続いて収益価格を試算したいと思います。
下の表に本物件が負担しなければならない費用を纏めました。
約10万円が強制的に出ていきます!
賃料収入は、パークコート神宮前の成約事例を基に坪20,000円を前提に上記費用等(建物固都税・保険料・テナント募集費)を控除すると、手残り2,230千円/年(経費率:44%!)と求められます。
本件定期借地期間の残りが39年なので、本物件から受けられる収入合計が8,793万円となります。
上記の取引価格で想定される5,500万円で購入した場合、利益として3,293万円なので、自己資本投資乗数は1.6となります。
繰り返しとなりますが、定借物件を担保に融資してくれる金融機関等は無いものと思わるなかで、本物件に5,500万円の自己投資資金をつぎ込む人は限られるでしょう。
また、自己資本のみで投資するのであれば利益が倍となって返ってくる水準は求めるだろうと考えると、8,793万円/2=4,397万円(266万円/坪)と、本競売基準価格程度での金額にならざるを得ないと考えられます。
次に入札参加者として、リニューアル業者等が入る余地(必要)はなく、エイドユーザーからの直買いが想定されます。
競売であることによる特殊減価は考慮せず、クリーニング費用等を控除した
5,400万円(327万円/坪)*基準価格✕1.23
と査定しました。
入札結果を待ちたいと思います。
仲田リアルエステート㈱
080-6631-3939
2021年11月6日追記
落札結果が発表されました。
55,121,000円(334万円/坪)
入札者数:11 法人が落札
入札参加者の少なさが、本件定期借地権物件であることを表しているようです。
なお、本件入札において競売であることによる減価は認められませんでした。
仲田リアルエステート㈱
080-6631-3939
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